躁状態の突っ走り旅行~その3『六畳一間に4つの卵』
京都に行こうと決めて、チケット売り場で夜行バスのチケット買って、
時間を潰すためにとりあえず新宿のマックでお昼ご飯。
旅行雑誌見ながら、
『ん~、京都っていってもどこがおすすめスポットかなぁ。
おすすめがありすぎてわかんないよ~』
とか考えながら、ペラペラページをめくってた。
そこに、若い今時ふうの男の人二人組が、椅子2つ空けた隣に座ってきた。
何を思ったか、私、その二人組に、
『あの~、京都に行ったことありますか?』
なんて聞いていた。
もちろん二人組は、『なんだこいつ』状態。
『これから京都に行くんですけど、どこがいいかわかんなくて』
『あ、いや…修学旅行くらいしか行ったことなくて…』
『ですよね~。すいません。ありがとう』
今になれば何やってんの?ってかんじなんだけど、その時は恐いもの知らず。
『そっかぁ、だよなぁ、私も修学旅行でしかいったことないしなぁ』なんてまた一人の世界に戻っていった。
そしたらその二人組が、
『あの~、京都に友達がいるっていうヤツがいるんだけど』
って言ってきた。
おぉ。
『電話で聞いてみようか?』
おぉ!
東京にも優しい人がいるんだ!
ここから話が盛り上がって、仲良くなった。
京都に友達がいるっていうヤツには電話が繋がんなくて、でも、『どこから来たの?』とか『何してる人?』とか。
なんでもその二人組、一人が芸人の卵、もう一人が俳優の卵なんだと。
おぉ。さすが東京。色んな人がいる。
夜行バスのチケットの話になって、
『いくらで買った?え?それ高いよ!もっと安く買えるところあるから、キャンセルしなよ』
と言われ、あっさりキャンセル。
安く買えるチケット売り場に行くと、今夜のバスは売り切れで、明日の夜の分しかない。
『オレ達男四人で暮らしてるんだけど、今夜はうちに泊まればいいじゃん。四人だから何も心配しなくて大丈夫!』
あっさり承諾。
『今日神宮の花火大会でこれから行くんだけど一緒に行かない?』
あっさり承諾。
恐いもの知らず。
ビルの間からかろうじて見える花火を、見ず知らずの男と3人で『おぉ!きれ~!』とか言いながら、のんきにビールなんて飲みながら見てた。
花火も終わり、下北にあるという二人組の家へ。
そこで、残りの二人を紹介してもらった。
『こっちがモデルの卵で、こっちがデザイナーの卵』
おぉ、これで卵が4つ!!!!
なんだかんだで、ワイワイ盛り上がった。
卵ばっかりだから、節約のために六畳一間に四人で暮らしてるんだって。
あちこちに服がかかってるし、衣装ケースは天井まで届きそうな勢いだし、いったいどこでどうやって寝るの?ってかんじだけど、でもなんだか楽しそう。
話がさらに盛り上がって、一人女の子の友達を呼んできた。
109のショップの店員さん!
マルキューってやつ?
しかもめっちゃギャル!!
めっちゃ細い!!!
めっちゃかわい~!!!!
私はド田舎で育って、短大進学とともに大きな都市に出たけど、
夢のために大学編入を目指してたから、勉強が大変だった。
夢が叶って仕事に就けたけど、その世界のことしか知らない。
私の中の世界は、とっても小さかったんだって、4つの卵と金髪つけま色黒ギャルを見ながら考えてた。
なんだかとても居心地が良かった。
東京はどんな人でも迎え入れる。
誰が何をやっていようと気にしない。
とにかくめちゃくちゃ色んな人がいる。
居心地が良すぎて、気付けば2~3泊してた。
みんなそれぞれバイトに行って、私一人で留守番したり。
早朝の路上でギター引いてる若者の歌をしんみり聴いたり。
俳優の卵とカフェに行って、恋人同士の設定でご飯たべたり。
なんだかとても楽しかった。
そしてある日ふと気付いた。
私、京都行くんだった!
今度こそほんとに安いチケット買って、いざ出発。
『じゃあ、もう行くね~』
『おぉ、じゃあね~』
東京はどんな人も迎え入れるけど、離れていく人を引き留めることもしない。
ちょっぴり寂しかったけど、でもなんだか満足して家を出た。