躁状態の突っ走り旅行~その5『バナナジュース』
六畳一間で4つの卵と過ごしたあと、京都へと出発するため、今度こそ新宿の夜行バス乗り場に向かった。
下北の駅で電車を待っていた。
まだ日も高く、とても暑い日だった。
ベンチに座って荷物を横に置いてぼけーっとしてると、一人の女性が歩いてきた。
40代くらいかなぁ。
同じように電車待ち。
暑いよね。立ってたら疲れるよね。
『あ、ここ座りませんか?』
と、隣に置いていた荷物をよけながら声を掛けた。
女性は、初めはちょっとびっくりしてたけど、『あぁ、ありがとう』と言って座った。
また、ぼけーっ。
『旅行か何かですか?』
女性が声を掛けてきた。
さっきベンチからよけた荷物を見てそう思ったみたい。
『あ、はい。』
どこから来たんですか?これからどこか行くの?とか、最初は世間話から始まった会話。
私を知ってる人がいない土地で、開放感に溢れてて、たかが外れた(吹っ飛んだ)私は、自分のことをペラペラ話していた。
知らない人だから話せた。
『今、病休で仕事休んでるんです。うつって診断されて。
でも家で何もしないでいるのもなんだから、一人旅の最中で』
女性は驚きと心配が混ざった顔で聞いてくれた。
『仕事大変なんだね。
でも、あなたなら大丈夫だよ。
こうやって私に「座らない?」って声を掛けれるんだもん。優しい気持ちを持ってるんだもん。ね?』
って、一生懸命、言葉を選びながら話してくれた。
そして『ちょっと待ってて』と言って、走ってどこかに行ってしまった。
???と思いながら、でも女性が言ってくれた言葉が嬉しくて、温かい気持ちになっていた。
女性がまた走って戻ってきた。
手には紙パックの『バナナジュース』。
そのバナナジュースを私の手に握らせた。
え???と思いながら受け取ると、
『あなたなら大丈夫。絶対、大丈夫だよ。
暑いからバテないようにね。
これ、飲んで。あっちの自販機で買ってきたから。
ほんとは何か食べるものがあればいいんだけど』
うわぁ。。。なんか、なんか、お母さんみたい。
びっくりと、嬉しさと、一気に女性を身近に感じたのとで、なんだか言葉に表せないような気持ちがぶわぁっと溢れてきた。
『ありがとうございます!』
そんなことしてたら電車がホームに到着。
行き先を見ると私が乗る電車ではない。
女性が乗る電車のよう。
あぁ、なんか、どうしよう。
とにかく『ありがとうございます!』を何回も言った。
女性は何回も『大丈夫だよ。大丈夫だよ。』って。
どうしよう、行っちゃう。
『また、今度』でもないし、『お元気で』もなんかよくわかんないし、とにかく『ありがとうございます!』しか言えなかった。
女性も電車に乗り込みながら、手を振ってもいいのか、そんな仲なのか、『またね』でもないし、でもバイバイ、みたいに小さく手を振ってくれた。
あぁ、行っちゃった。。。
バナナジュース。
なんか笑っちゃった。
ありがとう。
体の心配をしてくれて、何かできないかなって考えてくれて、とっさに『何か飲み物!』って思ってくれて、自販機行ったらバナナジュースがあって、『これだ!』って選んでくれたんだろうな。
なんか、一瞬の、ほんの一瞬の出会いだったけど、すごーく温かい出会いだった。
バナナジュース、ベンチで飲んだらおいしかった。